車とか、バイクのネジが、サビてきた・汚くなった・ネジ山がおかしくなった等の理由で交換しようと思ったことありませんか?
でっ、その代替えのネジを探しに、安易にホームセンターに行っていませんか?
それ、普通のネジを買ったら、まずい事になるかもしれませんよ。だって、車のネジは、普通にホームセンターに売っているネジとは違うから。
今回は、車に使うとちょっと危ないネジの話をしてみたいと思います。
普通のネジと自動車用のネジ。何が違うの?
車内のアクセサリーなどを取り付けるのに使用する小径のネジ。あれは、ホームセンターで売っているネジでも、全く問題ありません。
もともとの話が、ホームセンターで売っているボルトが粗悪品であるとか、そういう話ではないからです。
今回、問題としたいのは、例えば、ブレーキやフレームに使用される、特にボルトの話なんです。要は、強度の問題なのです。
特に、車のブレーキやフレームは、命に係わる部品です。そのため、それ相応の強度が求められます。もちろん、それを固定するボルトであっても同じ事です。つまり、車に使用されるボルトは、強度が求められているボルトなのです。
対して、基本的にホームセンターで販売しているボルトは、一般建築用とか、機械用に分類されるものです。即、命に直結する部分ではない箇所に使用されるものです。
この用途の違いが、ホームセンターで販売しているボルトと、自動車用ボルトの大きな違いなのです。
(一部、大きなホームセンターでは、自動車用ボルトを販売しています。)
強度に、どんな差があるのか?
強度不足のボルトを使ってしまうと、取り付けた直後は問題なくても、段々と金属疲労が起きて、ボルトが折れる。⇒部品が落下する。⇒事故が発生。という結果になるかもしれません。
想像してみてください。車に乗っている時は、段差を乗り越えたり、急なカーブを曲がったり、いろんな衝撃が加わりますよね。車を構成しているボルトにも同じ力が加わっているのです。
では、実際、ホームセンターのボルトと自動車用ボルトでは、どの程度強度に差があるのでしょう?
まずは、ホームセンターのボルトを見てみます。
ボルトの頭部に、数字とアルファベットが表記されているのを見たことありませんか?
これ実は、アルファベットが、製造メーカー名。数字は、ボルトの強度を表す表記なんです。細いボルトには、表記のないものもありますが、大体の鉄製のボルトには表記があります。これをボルトの強度区分といいます。
さらっと簡単に見ていくと、ホームセンターの六角ボルトに関しては、ほぼ4.8との刻印があります。
次は、実際に車に使用されているボルトを見てみます。
なにやら形状も違いますが、ボルト頭部に表記されている数字も違います。数字は8とか6が多いでしょうか?。使われている部分によって違うようです。
ボルトの頭部の数字の意味は?
ホームセンターで販売しているボルトの数字は、ほとんどが4.8でした。この数字は強度を表していると書きましたが、具体的には、どの程度の強度を持ったものなのでしょうか?
先頭の数字の意味は?
4.8のボルトの基本スペックは、先頭の数字の4に表されます。これは、ボルトのネジ部の断面の内で、1mm²あたりどのくらいの荷重まで持つかという数字なんです。
ただ、このままでは、4が表す意味が分かりません。そこで、先頭の数字に100を掛けることで強度を知る事ができます。4.8のボルトの場合、4に100を掛けると400です。
つまり、ボルトを垂直に引っ張ると、1mm²あたり400N(ニュートン)までもつということになります。
ここで疑問となるのが、ニュートンという単位です。ニュートンとは、力の大きさを表す単位です。kgfの方が馴染みがあるかと思いますが、ボルトの強度を表すのにはニュートンという単位を使用します。
ニュートン単位について、説明していきます。
ニュートン単位って何?
一応、混乱するだけかもしれませんが、ニュートン単位の定義を説明しておきます。
ニュートン(英: newton、記号: N)は、 国際単位系 (SI)における力の単位。1ニュートンは、1kgの質量を持つ物体に1m/s2の加速度を生じさせる力。
名称は古典力学で有名なイギリスの物理学者アイザック・ニュートンにちなむものである。
1904年にブリストル大学のデビッド・ロバートソンにより提唱された「ニュートン」の名称が1948年に採用された。
これによりニュートンは力の国際単位系 (SI)となった。
Wikipediaより引用
やっぱり、良く分かりません。なので特に内容は、理解しなくてもいいと思います。
元々、力の単位は、馴染みの深いkgfでした。ただ、その単位が”kgf”という単位から”N(ニュートン)”という、得体のしれない単位になったんだ程度でいいのではないでしょうか。
ほとんど同時期に、天気予報も単位が変わったのを覚えてますか?。確か気圧の単位が、ミリバールから、ヘクトパスカルに変わったと思います。それと同じ事です。
内容が分かったとこで、結局、その○○ニュートンが、どの程度のものなのか分かりませんよね。そこで、これをkgfに変換してみます。N(ニュートン)とkgfの関係は以下の通りです。
NとKgfの関係式
1N ≒ 0.102 kgf(102g)
1kN ≒ 102kgf となります。
つまり400Nであれば、400 × 0.102kgf ≒ 40.8㎏fとなります。
参考までに、逆も記載しておきます。
1kgf ≒ 9.8N
1000kgf ≒ 9.8kN となります。
※【 ≒ 】は、ニアリーイコールです。だいたい同じという意味です。
ちなみに、kgfのfの部分も不信に思うかもしれませんが、これは㎏の力(force・フォース)の単位です。
地球上では、大体のイメージとして、㎏と同意義だと思ってもらって問題ないと思います。ほんとは違いますが・・・。
後ろの数字の意味は?
4.8のボルトの、先頭の数字に関しては理解いただけたと思います。では、後ろの数字の意味するとこは何でしょうか?
基本スペックは、先頭の4という数字に表され、400N/mm²まで持つということでした。この数字は、ボルトの基本スペックであるとお話しましたが、これは、ボルトが精いっぱい頑張って限界の状態をむかえた時の数字です。
でも、精いっぱいの状態を続けていると、無理がかかって、ボルト自体が伸びきったままの状態になってしまいます。伸びた状態のボルトは使えませんよね。
そのため、『ボルトを上下に引っ張って、多少頑張って伸びたとしても、引っ張るのをやめれば、元に戻る範囲の事』を表す数字が、後ろの数字の8なのです。
これは、基本スペック(400N/mm²)のうちの何パーセントの力を発揮した状態であれば、元に戻りますよという表記になります。
頭部刻印が4.8のボルトであれば、
400N/mm²の80%以内の荷重なら元に戻るという意味です。
これを、『耐力』とか『降伏点』といいます。ボルトを使用する時は、この範囲内の荷重で使用しなければなりません。
他の強度区分のボルトも同じように書いてみました。
代表的なボルトの強度一覧
400N/mm²(約40.8kgf/mm²)までは切れないけど、その80%の320N/mm²以上の荷重がかかると伸びて変形したまま元には戻らない。
8.8800N/mm²(約81.6kgf/mm²)までは切れないけど、その80%の640N/mm²以上の荷重がかかると伸びて変形したまま元には戻らない。
10.81000N/mm²(約102kgf/mm²)までは切れないけど、その90%の900N/mm²以上の荷重がかかると伸びて変形したまま元には戻らない。
12.91200N/mm²(約122.4kgf/mm²)までは切れないけど、その90%の1080N/mm²以上の荷重がかかると伸びて伸びて変形したまま元には戻らない
となります。ボルトの断面の中の1mm²で、どれだけ荷重に耐えられるか分かったと思います。
ボルト1本あたりの耐荷重は?
ボルトの1本あたりの強度を計算するには、1mm²当たりのボルトの強度をボルトの断面積で掛ける必要があります。ボルトの断面積は、ボルトをスライスした時の面積です。
ただ、ネジには、ネジ山があるので普通の円としては計算できません。ボルトの有効断面積は、ネジの山と谷の中間の面積を算出するのですが、計算は非常に面倒なので、リストを参照します。
並目ボルトの有効断面積(mm²)
ボルト径 | ピッチ | 有効断面積 |
---|---|---|
M8 | 1.25 | 36.6 |
M10 | 1.5 | 58 |
M12 | 1.75 | 84.3 |
M14 | 2.0 | 115 |
M16 | 2.0 | 157 |
M18 | 2.5 | 192 |
M20 | 2.5 | 245 |
細目ボルトの有効断面積(mm²)
ボルト径 | ピッチ | 有効断面積 |
---|---|---|
M8 | 1.0 | 39.2 |
M10 | 1.25 | 61.2 |
M12 | 1.25 | 92.1 |
M14 | 1.5 | 125 |
M16 | 1.5 | 167 |
M18 | 1.5 | 216 |
M20 | 1.5 | 272 |
同じ、ボルトの太さでも、ネジ山のピッチによって有効断面積が変わってきます。ピッチが細かい方が、ネジ山が詰まっていますので、断面積は大きくなります。自動車には、ピッチの細かいものが使われる事が多いです。ちなみに、ピッチとは、ネジ山とネジ山の間隔のことです。
で、ボルト1本あたりの計算は以下の通りとなります。
例)『強度区分8.8』・『M8ボルト』・『ピッチ1.0』で計算してみます。
・M8ボルトの耐力は、800N/mm²の80%=640N/mm²
・M8-ピッチ1.0のボルトの有効断面積は、39.2mm²
つまり計算としては、
640 × 39.2 = 25,088N
25,088N × 0.102 ≒ 2,558.97Kgf = 約2.5tほどの荷重に耐えることになります。
実際に使用する際は、保証荷重という、耐力よりも低い数値が設けられているので、その数値を使用する事になります。
保証荷重は以下の通りとなっています。
強度区分 | 4.8 | 8.8 | 10.9 | 12.9 |
保証荷重(N/mm²) | 310 | 600 | 830 | 970 |
また、この荷重は静荷重での数値なので、使用環境ごとに剪断荷重などの応力を考慮して、安全係数を考える必要があります。
自動車用ボルトの強度は?
自動車用ボルトは、7とかの数字1個が表記されていました。これも強度区分なのですが、自動車業界がメインに使用している強度区分です。
本来であれば、耐力表記のない、数字1個だけの表記は、JIS規格上は無くなるはずです。JISの規格書のなかでも付属書に分類され、将来は無くなる規定のものですが、自動車業界には残っています。
数字と引っ張り強度を表すT(tenile strength)と合わせて7Tボルトと呼ぶこともあります。
この規格なのですが、いままで書いてきたニュートンとは違い、もともとの表記が○○kgfです。例えば7の表記のある7Tボルトであれば、70㎏f/mm²まで切れないという事になります。
一応は、『○.○の表記の強度区分に割り当てることができます。』ほぼ同等の強度と考えてOKです。
自動車用ボルトの頭部数字と強度区分
自動車用ボルトの強度互換
4または、表記なし ⇒ 4.8
6 ⇒ 6.8
7または8 ⇒ 8.8
10 ⇒ 10.9
11 ⇒ 該当なし。110㎏f/mm²まで切れない。
12 ⇒ 12.9
となります。車の重要な部分に取り付けられているボルトには、表記があります。バイクも同様です。
あと、トヨタ車などは、数字ではない、模様や記号のパターンも存在するので注意が必要なようです。
自動車用ボルトのまとめ
どうでしょうか?。自分の車に何も知らないで、普通のホームセンターで買ったボルト使用するのが危険な理由が分かっていただけましたでしょうか?。
実際に使用されている、自動車用のボルトを調べると、8~10の表記が多いように感じます。これは、普通の強度区分で、8.8~10.9に該当します。
おそらく、普通のホームセンターでは売っていない強度のボルトであると思います。また、形状も、自動車用は、頭が小さかったり、フランジが付いていたりします。何らかの理由があって、メーカーの設計者が選定したボルトであるので、形状も同じに越したことはありません。
今回は、自動車に使用される鋼製(鉄)のボルトの強度に限って書いてみましたが、同様にステンレスのボルトにも、強度区分は存在します。
ステンレスに関しては、あまり自動車に使用しないので、割愛をしましたが、キレイだから、サビにくいからという理由で、鋼製ボルトからステンレス製のボルトに置き換えるのも良くないことです。
鉄⇒ステンレスの置き換えは、強度以外にも、腐食の問題が発生する事があります。詳しくは別の記事に書くかもしれませんが・・・。
基本的にボルトを交換するなら、同じ材質・同じ強度・できれば同じ形状が望ましいと思います。
何だか、長ったらしくなりましたが、
今回は、これで終了です!
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