ウェルナットは、ゴム製のスリーブの中に金属製のナットが仕込まれたブラインドナットです。パネルやバイクのカウル・スクリーンなどをネジで取り付けたい時に裏側でナットを持っていなくても、片側から簡単にネジ締めができるというものです。裏側に手が入らないといった個所には非常に便利です。
また、ゴムの弾性を生かし、振動の抑制・絶縁・シール効果などの機能をもっています。相手部材に優しく固定できるため、薄い金属板や、樹脂などはもちろん、ガラスや陶器への固定も可能です。
ウェルナットの構造と仕組み
ウェルナットの構造
下の写真はウェルナットを半分に切った断面です。ゴム製のスリーブの先端に真鍮などでできた金属製のナットが入っています。ナット部はスリーブと一体成型されていて、半分に切った状態でも外すのが困難なくらいしっかりと固定されています。
ネジの規格は、専用品ではなく一般的な並目ピッチなので、ホームセンターなどで簡単に入手が可能です。
スリーブは、一般的にクロロプレンゴムまたはEPDMといったゴム系の材質でできています。クロロプレンゴムの方が、流通量が多くサイズ構成も豊富ですが、耐候性・耐オゾン性はEPDMの方が優れています。
ゴムの材質特性の違いは以下のページがありますのでごらんください。
ウェルナットの仕組み
ウェルナットの仕組みを説明します。ここでも、パネルにパネルを取り付けるという状況を仮定します。その場合、ウェルナットとパネルの関係は以下のようになります。
この状態でネジを回すと、ゴムと相手部材との摩擦でスリーブ部分の回転は固定された状態になり、ネジだけが回転し中にあるナットを引き上げる状態になります。
更に締め込むと、ナットによって引き寄せられたゴムが膨らみ、穴から抜けない状態になり固定されます。
これが、ウェルナットが片側から、施工できる仕組みです。
外す時は、ネジを緩めるとゴムの膨らみが元に戻り、穴から抜き出すことができます。下の写真は、一度取り付けて外したものです。少し、膨らんだ跡は残っていますが、ネジを緩めれば、ほぼ元の形状となります。
ただし、長年使用していた場合は、ゴムの劣化のため弾性が失われて硬化し、元の形状に戻らない場合もあります。
ウェルナットの使い方
ウェルナットの基本的な使用方法です。こちらも、パネルにパネルを取り付けると仮定します。絵の順番で説明します。
- 穴のあいた被取付物に、ウェルナットを挿し込みます。
- 穴のあいた取付物をウェルナットにあてがいます。
- ネジを挿し込み回します。
- ネジを締め込み続けるとウェルナットが引き寄せられ膨らんで固定されます。
- ネジの頭部と取付物の間に座金を取り付けると取付物に傷がつきにくくなります。
- ゴムの弾性を利用した締結部品なので締め込み過ぎに注意してください。
フランジ部分が回転しないように軽く取付物の方向に押し付けながら、ネジを回すと施工しやすくなります。フランジ部分が回らずネジだけ回すのが理想です。被取付物と取付物の間には、ウェルナットのフランジ部分で隙間があく構造です。ある程度圧縮されますが、完全には密着しません。
ウェルナットが使える場所
ウェルナットが使えるのは以下のような場所です。パネルとパネルを固定するだけでなく穴の内部で拡張して抜けなくすることもできます。
板材1枚に
板材1枚を固定する。
一番スタンダードな使い方です。パネルにパネルを取り付けるイメージです。バイクのカウルなどの固定がこれにあたります。
板材2枚に
板材1枚を固定する。
あまり使用しませんが、パネル2枚に対して、パネル1枚を取り付ける事もできます。カシメ板厚が決まっているので、長めのウェルナットを使用します。
深穴やパイプの内径に
板材を固定する。
貫通していない穴やパイプの内径にも使用できます。ゴム部が圧縮されて広がる事で穴の内側で突っ張り、固定されます。
ウェルナットの外し方
スリーブが経年により硬化していない場合
スリーブが劣化して硬化していなければ、ネジを緩めると元の形状に戻り、取付物・ウェルナット両方とも取り外すことができます。
スリーブは硬化しているがネジは緩む場合
もし、スリーブ部分が硬化してしまっている場合も、ネジを緩めることができれば、上のパーツは取り外すことができます。残ったウェルナットを外すには、無理やり穴から引き抜けば外すことができます。
スリーブが硬化していてネジも緩まない場合
ゴムは硬化すると、摩擦力が低くなり、空転しやすくなります。空転してネジが緩まない時は、摩擦力をかせぐため相手材に強く押し付けながら回したり、フランジ部分を押さえれば外すことができるようになります。スリーブを掴むことができれば、押さえて回すのが一番確実な手段です。
最悪なのは、スリーブから金属のナットが剥がれ、内部で空転してしまっている場合です。スリーブとナットはインサート成型で焼付けられているので、そうそう起こることは無いですが、こうなるとネジを緩めようとしても、ナットが供回りしてしまい、外すことができなくなります。
スリーブ部分をつかむ事ができる状況であれば、ペンチなどでスリーブの外から中の金属製のナットを掴んで固定することで、ネジを回すことができるようになります。
裏側に手が入らない・パイプの内部で固定しているなどの場合は、掴むことができないので、カッターなどを使って地道に破壊するしかありません。
主要なウェルナットのサイズ表
ウェルナットのメーカーで有名なのは、ポップリベットファスナーという会社です。ヤマハやホンダなど、○○純正などといった商品も、ポップリベット製であったりします。
下の表は、その中でも流通量の多い規格をまとめたものです。
ネジの規格 (ネジ径-ピッチ) | 品名 | 推奨締結 板厚 | L 全長 | t フランジ厚 | D フランジ径 |
M3-0.5 | C-330L | 0.5~3.0 | 13 | 3 | 10 |
M4-0.7 | C-440 | 0.5~4.0 | 12.2 | 1.2 | 11 |
C-440L | 14.5 | 3.5 | 12 | ||
M5-0.8 | C-550 | 0.5~5.0 | 14.2 | 1.2 | 12.7 |
C-550L | 17 | 4 | 14 | ||
M6-1.0 | C-630 | 0.5~3.0 | 16 | 1.3 | 16 |
C-650L | 0.5~5.0 | 21 | 4.5 | 17.8 |
推奨締結板厚は、被取付物の厚さにあたります。また、フランジ厚は、被取付物と取付物の間に生じる隙間を表します。
上でも書きましたが、ネジの規格は一般的な並目ピッチなので、規格さえ合っていれば、ホームセンターで売っている普通のネジが使えます。
ホームセンターで売っているウェルナットとバイク用品店で売っているウェルナットはどう違う?
結論から言うと、おそらく製造元も含め同じものであると思います。
一般的にネジや部品の卸会社は、【メーカーから仕入れる→パッケージングする→小売店に販売する】という段取りを踏みます。
中身は同じであっても、卸会社の違いや、販売先向けによるパッケージの違いなどで別の商品に見えているだけの場合が多いです。
また、付属するネジをステンレスに変えるとか、少しデザイン性のあるものに変えるなどといった売り方で別のものに見えている場合もあります。
ウェルナットの場合、たとえ、製造が同じメーカーでなくともサイズさえ合っていれば代替えは可能です。
小売り各社を比較して、安いところから購入すれば問題ありません。ただし、Amazonなどで販売している中国メーカーのものは、ゴムに不純物が入っているなど早期の劣化を招く可能性があるので、避けるのが無難です。
ウェルナットの使用上の注意
ウェルナットは、ゴムで覆われているので、通常のボルト・ナットのように、ガッチリとした締結感はありません。弾性体を挟んでの固定となるため、ガラスや陶器のような脆いものにも優しく固定できる反面、ややグニャっとした締結感になります。
バイクのカウルなど振動のあるものを固定するには丁度いいですが、確実な固定や強度が要求されるような個所には向きません。
また、ゴム部の劣化により本来の弾性や摩擦を得られず、ネジが緩んでしまったり、外すときに空転して外れないということもあるので注意が必要です。
ゴム部の材質は、主にクロロプレン(CR)ゴムで比較的、耐候性・耐油性・耐老化性に優れた、自動車のホースやベルトにも使用される材質ですが、屋外で日光にさらされている個所など紫外線の影響で早期に劣化が起こる場合もあります。
ゴムという、劣化の起きやすい材質を使用してるので、定期的な増し締めと、チェック、それに劣化が見つかった場合は交換が必要になります。